EBウイルス(EBV)は、成人までに大部分の人が感染していますが、一部の感染者にリンパ腫(バーキットリンパ腫、ホジキン病など)や上皮細胞腫(胃がん、上咽頭がん)を発症します。しかし、これらのEBV陽性がんに対する分子標的薬は開発されておらず、問題となっています。
EBVはこれら腫瘍で潜伏感染という感染様式をとっています(ウイルスの一部の遺伝子だけ発現)。不思議なことに、EBV陽性がんによって発現するウイルス遺伝子の種類が変わるのですが、共通して発現しているのはウイルス由来のマイクロRNA (miRNA) です。ウイルスmiRNAはアポトーシス抑制や、ウイルスの溶解感染を抑制しています。従って、創薬標的になる可能性があるのですが、大きな問題は40種類もの異なるウイルスmiRNAが存在することです。しかも、標的遺伝子は重複していることがあります。従って、創薬標的にするには、全てのウイルスmiRNAの発現を抑制する必要があります。40種のmiRNAは1つのプロモーターで制御されています。そこで、プロモーターに着目した研究を開始しました。
この研究では、ウイルスmiRNA (BART miRNA)のプロモーター活性の抑制剤を探索し、活性抑制剤としてボリノスタットという薬を同定しました。
この薬は、ヒストン修飾に関わるHDACという酵素を阻害する薬の1つで、難治性のリンパ腫の薬として臨床応用されています。ボリノスタットは、BART miRNAの発現を抑制し、ウイルス溶解感染を誘導しました。EBVは遺伝子変異が多く、溶解感染を生じないウイルス株も存在します。一方、BART miRNAプロモーターには変異がほとんどありません。この薬は、溶解感染が起きないウイルス株が感染していても、アポトーシスを誘導し、細胞死をひきおこしました。
HDAC阻害剤は、複数のHDACを標的とするため非常に副作用が強いという欠点があります。次の課題は、どのHDACがこの現象に関わっているのか、同定することでしょう。
本研究の成果は、Virology誌に掲載されています。
またこの研究は、大学院生のLiu Yuxinさん(中国出身:現 ピッツバーグ大ポスドク)を中心に行われました。太字、下線は当講座のメンバーです。
Liu Y, Wai AP, Iida Y, Tumurgan Z, Okada S, Iizasa H*, Yoshiyama H*. Exploring the anti-EBV potential of suberoylanilide hydroxamic acid: leading apoptosis in infected cells by suppressing BART gene expression and inducing lytic infection. Virology 597:110161(2024) https://doi.org/10.1016/j.virol.2024.110161 (*Corresponding author)