B型肝炎ウイルス(HBV)は、感染者の90%は無症候性キャリアですが、残りの10%は慢性肝炎を発症し、やがて肝がんへと移行します。なぜ大部分の感染者が肝炎を発症しないのか、どのような分子機構が発症を抑制しているかはまだ十分に解明されていません。
この研究では、肝細胞の初代培養細胞にHBVを感染させ、感染直後から発現が上昇するRNAを調べました。するとその中に、HBVを標的とするmiRNA(miR-3145-3p)を発見しました。miRNAは非常に小さいRNAで、抗ウイルス効果を持つものも報告されていますが、その多くの機能は明らかになっていません。miR-3145-3pは、HBVのポリメーラゼ遺伝子の一部を標的とし、その過剰発現はウイルス複製を抑制します。興味深いことにこのmiRNAはインターフェロンでは発現が誘導されず、ウイルス感染に伴う小胞体ストレスによって発現が誘導されます。
小胞体ストレスは、HBVによる肝炎の悪性因子と考えられていましたが、実はその中に抗ウイルス因子が隠れていたというのが本研究のユニークな点になります。この論文から、おそらく感染初期の小胞体ストレスは抗ウイルス作用を持つのですが、その反応が長く続くと細胞自体がダメージを受けてしまい、肝炎になってしまうと予想されます。
ではなぜ、いままでこのmiRNAが発見されなかったのでしょうか。実は、このmiRNAの発現が大きく変化するのは、ウイルス感染直後だけです。HBVの感染実験できるようなったのはこの10年ほどで、それまではウイルスが持続感染している細胞しかなかったのです。つまり、感染直後の細胞を調べれば、まだまだ未報告の抗ウイルス因子は発見されるものと予想されます。
本研究の成果は、Frontiers in Microbiology 誌に掲載されています。
この研究は、大学院生のAmrizal Muchtarさん(インドネシア出身:現ムスリム大学講師)や、Dang Dingさん(中国出身)、小野村大地 特任助教(現:自治医科大 助教)を中心に行われました。太字、下線は当講座のメンバーです。また、この研究は国立感染研、大阪大、藤田医科大、近畿大、国立国際医療センターなど多くの方々との共同研究になっています。
Muchtar A#, Onomura D#, Ding D, Nishitsuji H, Shimotono K, Okada S, Ueda K, Watashi K, Wakita T, Iida K, Yoshiyama H*, Iizasa H*. MicroRNA-3145 as a potential therapeutic target for hepatitis B virus: inhibition of viral replication via downregulation of HBS and HBX. Front Microbiol 15:1499216 (2025) https://doi.org/10.3389/fmicb.2024.1499216 (IF: 4) (#Equal contribution, *Corresponding author)