先日、出雲高校理数科の1年生を対象に、基礎研究の話を行った。最近、基礎研究に進む医師の数は急激に減っている。その原因は非常に単純で、臨床医と基礎研究者では収入が全く違うのだ。それでも基礎研究には大きな可能性があるのだが、そのことに気がつく人は減っているのかもしれない。幸い、最近の政府は基礎研究の重要性を理解し、大きく方向転換しつつある。おそらく、将来は研究者の待遇改善も進むことであろう。研究内容は、新型コロナウイルスの話だったので、ちょっと難しい話だったと思う。こちらとすれば、シンプルに「基礎医学は意外とおもしろそうだ」と思ってくれればうれしい。幸いにも何人かの生徒から色々質問があり、すごく楽しい時間を過ごすことができた。また、引率の先生や岩下教授からも質問があったのはおもしろかった。今回の講義を手配してくれた岩下教授の質問が結構奥深いものだったので、ここで少しのその話を書いておく。
ウイルスは感染細胞を破壊してしまうと自身には不利なのに、なぜそのような増え方をするのでしょうという質問だった。急に増えるウイルスの利点は、免疫に捕まる前にとにかく増えて、次の個体へ移動することだろう。このようなタイプ(急性感染症)は、ウイルスのメインタイプである。ウイルスとしては、少ない数の遺伝子で対応できるので、このほうが有利なのだろう。だが、おもしろいことに、ずっと宿主に感染してじっとしているタイプのウイルスもある。単純ヘルペスとか、帯状疱疹・水痘ウイルス、このラボのメインテーマであるEBウイルスなどがそうだ。これは、免疫から逃げて潜んでいるタイプで、このようなウイルスもいる(慢性感染症)。おもしろいのは、こういうウイルスの中には腫瘍ウイルスが多いということだろう。ずっと感染しているというのは、小さな炎症が続きやすく、実は非常に生体にとって危ない現象だ。なぜ2つのタイプがあるのか。答えは「わからない」だ。ウイルスは非常に不思議な存在で、何んでそうなっているのか?その利点は何か?時々理解できないこともある。だから、ウイルスを研究する時には、データをありのまま受け入れ、先入観なしに研究を進めるようにしている。結局、論文にまとめる最終段階で、「これで説明がつくのか」と思えることもある。
科学的事実は、時に人の想像を超えることがある。新しい発見をして、医学に貢献ができたら素晴らしいことだと思うのだがどうだろうか。こういう点に興味を持つ人がいれば、是非、研究室に足を運んでもらえたら幸いである。